桂馬蒲鉾公式ホームページ │ 100周年記念特設ページトップ │ オンラインショップ

100周年「わたしと桂馬」フォトメッセージ




寺西倫子様



今でも桂馬の店の前を通るとあの時の情景を思い出す。
あれからもう10年も経ってしまった。
主人が川崎医大に心臓病で入院していた。一日に二度しか面会できない主人の為に、私はずっと病院に泊まり込んでいた。 病状はよく理解出来ていないが、決してよくなっているとは思えなかった。 そう主人がICUに入った時からだったと思う。八十を充分過ぎていた母が、毎夜川崎医大まで泊まりに来るようになった。 まだ仕事を現役でしていたので、病院に着くのは8時過ぎていた。 当然玄関の入口は閉まっているので、職員が夜通る地下の入り口から入って来た。病院の8時は真夜中のように静まり返っていた。
コツコツコツと杖の音がする。急に静かになったと思うと看護師さんの詰め所で何か話し声がする。
持って来た桂馬の蒲鉾を夜勤の人に
「お茶とおあがり」と渡しているのだ。そして間もなく私がいる病室のドアがノックされる。
「どうぞ」それを聞く間もないうちに、桂馬の茶色の紙袋を持った母がにこりと笑って「今晩は」という。
私は涙が出る程嬉しいが「また来たん?」と言う。
十分もしない間に母はスースーと寝息をたてて寝てしまう。来ても主人に会える訳でもない。私と何を話すでもない。ただ泊まりに来るだけ。
あくる朝5時に又まっ暗の地下を通って帰って行く。「もう今日は来んでもいいよ」 母は笑っているだけ。それが何日も続いた。
今は主人も母ももういない。私がその時の母の年齢に近づいている。
今子供達にあの状況が起きたとしたら母と同じ事が出来るだろうか。
少なくともそれに近い事の出来る母親でいたいと思う。
母と私と桂馬 いつもあの状況を思い出す。



●拡大してご覧いただけます>>>
寺西倫子様 直筆作品



エピソード投稿作品 一覧を見る≫